はじめに

自分で石積みの家を造ろうと思ったわけ

理想を抱いて田舎に飛び込んだものの、なかなか思い描いていたような家や環境に出会えませんでした。それならば自分でと、あまり深く考えないで始めました。

それがなぜ石積みだったのかといえば、ギリシャにパロス島という島があります。昔そこを旅した時、しばらく滞在した家が、ずっと気持ちの中にありました。アメリカ人の女性が廃墟同然に崩れていた石壁を、一人で修復して造ったものです。小さく簡素でありながら、それ自体が景色という美しい家でした。
そこで出合った生活も印象深いものでした。《隣のおばさんが今朝作ったヤギチーズで、自家製ワインを飲む。「いい香りだよ。」と起こしてくれるユーカリの焚き火。その煙越しに見る、ブドウ畑のどこまでも続く石垣。丘の向こうにゆっくり落ちる夕日》手作りの生活に流れるゆったりとした時間、本当の豊かさを感じた気がしました。(実際は、のんびりとは全く無縁だという事が今はわかりますが。)

パロス島の石の家とそこの暮しは、深く共感でき、強く憧れるものとなりました。「いつか自分も石を積んで家を造り、こんな暮しができたらなあ。」あの時、そう漠然と思ったことが今に繋がっていると思います。

石を積み上げて家を造るというのは、私のセルフビルドのイメージに一番あっていました。ただ、どれくらい大変かは何も分かっていませんでした。完全にイメージ先行の憧れだったと思います。簡単に考えていたからできた事の典型かもしれません。深く考えないで、とにかく始めて、あとはなんとかする。こういうところが確かにあります。

パロス島の石造りの家の室内パロス島で滞在した石造りの家の内部→

石積みの家、実際やったら

他人の目で見る美しさや憧れ的な部分と、実際やってみる大変さは見事に別のものでした。ひたすら地味だし、やっている間はつらいだけでした。例えば今、石の家についてあれこれ言っている事も、実は今思う事で、その最中は何も考えていなかったと思います。とにかく一段でも上に積み上げていく事、それだけで頭が一杯でしたから。

建設に使った石はすべて、土地の造成などで現場から出た石です。主屋だけで1万個はあるでしょう。よくもこんなにあったと思います。石の多い土地であることは知っていましたが、予測していたわけではありません。他から運び込んででもやるつもりだったので、現場から出てきたものを利用できたことは、とてもラッキーだったと思います。

そんなにつらかった石積みの家を、また始めたのはどうしてか

1992年から4年かかって主屋を造りました。そして翌96年、別棟の風呂とトイレを完成させ、我が家の生活は一応落ち着きました。 でも、
2000年から2003年に、また小さいまるい小屋を造ったんです。「何でまた、よくまあ、、」そんなふうにも言われました。造り続けるうちに、どうやら石積みそのものの楽しさが分かってきたのかもしれません。パズルみたいなおもしろさと、人生そのもののようなやっかいさ、はまるんです。

石の家で生活するようになって時間的な余裕ができ、石壁を見ていると、積み上げていた時の苦労が、楽しかった思い出に変わっているのに気づきます。不思議ですが、あれだけつらかったのに、またやってみたくなるんです。大変な思いをした経験が、何より楽しかった記憶として残るってありますよね。ものすごくきつかった旅とか、マラソン、山登りなんかもそうじゃないかと思います。

この家を造って住んで、10年あまり。「随分経ったな。」と感慨深げにしようにも、我が家の石壁は10年なんていかにも《なんという事もない》様子です。これから先、この石壁はずっとここに建っているのかと思う時、時間の概念が変わります。石の家の景色も住み心地も、いろんな事を教えてくれているような気がします。どうしてパロス島のあの家はあんなに落ち着く家だったのか、今なら別の理解もできるように思います。

転がっていればただの石ですが、積み上げれば家になる。石の建物がいくつか、木立の中に点在する風景、頭の中にはもう出来上がっているんです。

第3作目はいつ頃、完成しますか

分かりません。主屋を造り始めた時、完成事体、イメージできた人は少なかったみたいです。どのくらい時間をつくれるか次第ですが、やればできていく、その積み重ねです。私はコツコツやるのは嫌いなんですが、相手が石だと一生懸命やってもコツコツにしか見えないんですね。 順調にいって3年ぐらいとみています。

《はじめに》の最後に

石積みの家は私が自分で石を積んで造ってきました。でも、それが出来たのは、いろいろな人達の支援や協力があったからだと改めて感謝しています。

ものを自分でつくり始めると、結局終わりがありません。私が庭師だからでしょうか。景色の中に住む夢を追っています。 暮しを自分でつくっていくおもしろさ、自然の豊かさと恵み。このホームページからそんな楽しみを感じ取っていただけたら幸いです。2005.11.12


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